家賃二百万円のマンションを見つけた話
わたしはダイエットを健康維持をかねて、公園で散歩しています。早朝のような、人の少ない時間帯を歩いていると、まるで森林浴をするような贅沢な気持になれるのです。
先日、いつものように散歩をしていると、公園に隣接するマンションのバルコニーに人が立っているのが見えました。その人はフォレストグリーンというのか、深い緑色のシックな色合いのガウンを着ていました。がっちりした体躯の熟年男に見えました。胸元からちらりとのぞく白い下着がすがすがしい。男は両腕を腰に当てて公園の緑を見渡しています。
深呼吸をして、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んでいるようです。その様子からは、充実、満足、自信といったものがみなぎる感じがしました。そばにはどっしりとした木製のリクライニングチェアが置かれています。
そこに座って、ビールとかペリエとか飲んだらさぞ気持ちがいいだろうなあと想像しました。だって、この心地よい林を夜も昼も独り占めしているのです。いいな。なんといううらやましい暮らしでしょう。
そのマンションの外壁は、煉瓦とコンクリートで覆われて、重厚さと現代性を感じさせるデザインになっています。天井も高く、部屋の容積の大きさを感じさせます。下から見上げただけですが、えらくリッチな造りなのでした。
ここは東京を代表する公園の一つで、東京オリンピックの時に作られた元選手村も備えています。公共性の高い場所ともいえるのです。そんな、みんなが一緒に使うところに、こんな立派なマンションが、木々に隠れるように建っているのでした。
わたしは年とともに自然派、緑地好きになってきましたが、不動産好きでもあります。このマンションはいったいおいくらなのか。そんな人が住んでいるのか。がぜん興味を募らせました。
公園を足早に出ると、そのマンションの入り口を探しました。公園の駐車場がやけに広いので、ずいぶん回り道をしましたが、そのマンションの地下部分にあたる車寄せを発見しました。茶色いフロックコートを着た、バトラーと呼びたくなるような男が立っています。おいそれとは近づけない雰囲気です。ここでもやはり遠くから眺めることしかできませんでした。
その百メートルくらい先には、二時間四百二十円で入れる温水プールがあります。そこにも時々行きますが、入り口の様子は全然違います。
わたしは、古き良きロンドンの貴族の館を思わせる、そのマンションの名前を覚えて家に帰りました。
さっそくパソコンで検索すると、そのマンションのことがだいたいわかりました。限られた人が特権的に使っているのかと想像していましたが、そうではありませんでした。超一流不動産会社が持つ賃貸マンションだったのです。家賃は二百万円前後でした。
そうかあ。月に二百万円払ったら、だれでもあの素敵な部屋に住めるのです。わたしは妙に納得しました。それはいかにも平等な感じがしたからです。そうだ。こんな素敵な場所、個人が独占するべきではない。
あの金持ち風のおじさんも、家賃を払って住んでいたのです。いつまでそこにいるかもわからないのです。
わたしだったらどうするかということを考えました。やっぱりわたしは、公園を歩いて楽しむのが性に合っていると思いました。同時にいろいろな選択が許される社会をいいものだと思いました。