pinotannのブログ

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子宮筋腫体験記(4)診察室での、セカンドオピニオンについての話し合い

「わかりました。わたし……ほかの病院を探します。先生どんな病院がいいでしょうね」

わたしは、ふざけ半分に軽く聞きました。 

 

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先生も、わたしがショックからひとまず気持ちを切り替えたと思ったようでした。

診断をいい渡すプレッシャーから解放されたとでもいわんばかりに、気楽な感じで答えています。

「まあ、大学病院はやめた方がいいかな。中規模の婦人科の専門病院とか、婦人科医のいるところがいいんじゃないの」

などと、のんびりした返事をしました。

この人はなんでもきちんと教えてくれるなあと感心しました。子宮をとるといわれてキレ気味の患者とはいえ、先生に対してかなり失礼なことをいったのにもかかわらず、きちんと答えてくれるのです。わたしは、先生の親切をありがたく思い、具体的な病院の名前をいう気もないらしい先生の時間を、これ以上むだにするのはやめました。

「じゃあ、そうします。先生、いろいろお世話になりました」

立ち上がってお辞儀をしました。ここで決めていいかなと思うくらい、この先生の感じはよかったです。でもその前にほかの医師の診断も受けなくては納得できませんでした。子宮をとるという大きな決断をするのです。この先生の診断はだれが見て妥当なものだという裏付けがほしかった。医療事故などのリスクを最小限に抑えなくてはならない。そのためには、少々失礼な態度になったとしても、自分のやるべきことを優先させようと思っていたのです。

診察室を出る直前に、先生は生来の負けん気をにじませました。一番いい方法を話しているのに、なぜそれを信じないのかと腹がたったらしい。ペンを左手に握ったまま皮肉というか、からかうような口ぶりで余計なことをいいました。

「あ、そうだ。ついでに病院ふたつくらい行ってみたら」

わたしはむっとしました。どうしてふたつ行く必要があるんですかと、立ち止まって問い詰めようかと思ったくらいです。

こっちは貧血でふらふらになっていて、おまけに子宮をとらないといけないといわれて、そんな患者に対してなんということをいうのか。

同時に先生の心情がよくわかって、面白い人だなと心の中でにやりとしました。不思議なことに、気持ちがすごくよく合う人だと感じました。思ったことが言い合える相手のような気がしたのでした。

先生は頭の回転が速くてまっすぐな人でした。真剣に仕事をしていることもわかりました。だからこそむっとしたのでしょう。

わたしは黙って、診察室を出ました。

受付で会計資料ができるのを待っていると、奥の診察室からあわてた声がしました。椅子から立ち上がって、先生はばたばたとなにかしながら大声でいいます。

MRIを貸し出しますから、持っていくといいですよ。それから紹介状も書いてあげます。そのほうがいいから」

MRIを持たせてもらえるのはありがたいと思いました。ベテランの看護師がMRIを大きな封筒に入れながら「これは貸し出すものですから、必ずかえしてくださいね」と念を押すのを黙って聞いていました。

冷静なつもりでしたが、厳しい診断を聞いたわたしは、内心はかなり衝撃を受けていたようでした。わたしは子宮を失うかもしれない。そんなことになったら、女として劣るのではないか。男のような太い声になるなどというのは迷信に過ぎないにしても、わたしはこれからどうなってしまうのか。

それは、じっと立っていられないくらいの孤独であり、心細さでした。

「これからどうしたらいいのかな。どこの病院へいったらいいのかな」

そういった心配があとからあとから浮かんできます。先生はなおも声をかけてきました。

「紹介状あったほうがいでしょ。せっかくここに来たんだから」

わたしは受付カウンターに肘をついて、片手で額に手を置いていました。先生の方を見る気もしませんでしたし、返事もしませんでした。紹介状なんてどうでもいいや。どうせお金がかかるのに…。

先生は仕方なく看護師を呼びました。若い看護師は先生のことが怖いのかとてもあわてていて、紹介状を別の封筒にいれてしまったようです。「あ。まちがえた」といって、申し訳なさそうにわたしの方をちらりと見ます。もたもたして時間がかかったけれど、その方が都合がよかったです。時間はたっぷりとあるのだし、誰かのそばにいるだけで気持ちが落ち着いたから。

「いいですよ。わたし急いでないから」

ゆっくりと待ちながら、なんとか気持ちを立て直そうとしていました。

 

後から知ったことですが、この病院は、セカンドオピニオンを聞くことで、患者に不利にならないように配慮しているということでした。