子宮筋腫体験記(6)2つ目の病院でいわれたこと。婦人科医もいろんな人がいました。
2つ目の病院は白い高層ビルのような建物でした。
ここは産科もあるので妊婦が行き来しています。癌患者らしい、帽子をかぶった女性もいます。おまけに隣は心療内科で、待合室が同じでした。
たいていの人は黙ってソファに座っているだけですが、60代半ばの女性が頭を両手で抱えて、
「わからない。わたしなんにもわからないの」
とからだを揺らしながらつぶやいています。
夫らしい人が黙って付き添っていました。
世の中には病気の人がたくさんいるのだなあと、変なことに感心していました。
予約をしたのに2時間くらい待って、やっと名前が呼ばれました。
診察室に入ると、60歳くらいの白髪の男性医師が、上品な笑顔で迎えてくれました。
紹介状とMRIがあったので、わたしが説明することはありませんでした。
医師は、
「わたしも紹介状にある医師の診断と同じ意見です。筋腫が大きくなりすぎて子宮が原型をとどめていないのに、筋腫だけとって子宮を整形しなおすことに、意味がない」
とはっきりいいました。
この先生の一言で、わたしの気持ちは固まって、1つ目の病院で手術を受ける決意をしました。
それでも、診察は続いていて、老医師は「こんな大物は久しぶりに見た」とわたしの筋腫のことを面白がっています。
「新生児の頭くらいありますよ。あなたの2人目の赤ちゃんだ」
と、聞き様によっては冗談きつい発言をしました。後ろに立っている看護師がぎょっとしているのが見えました。
わたしは2人目がほしかったのですが、夫と意見が合わずに、ひとりしか産めませんでした。それもずいぶん昔の話で、長女は21歳になっています。
そんなことで特に動揺もしませんでした。わたし、もうこどもはいらないんだと今更のように感じただけでした。
「先生。冗談きついですよ。これから取ろうとしているのに…」
そう返すと、老医師は待っていたように「わっはっは」と笑って上機嫌になりました。
ほっそりとして優しげな医師ですが、発言は自由奔放でした。
それから、真顔に帰って、
「今日は手術を担当する先生がいるから呼んでみよう」
と言ってくれました。
しばらくしてやってきた、手術をするという医師は、どう見ても20代のお兄さん先生でした。目がくりっとした色白のイケメンです。こどもの恋人には理想的かもしれませんが、こんなに若い先生の手術を受けるのはいかがなものかと不安がよぎります。
手術する医師は、ある程度熟練してもらいたい。万が一のリスクを限界まで下げるために、貧血でふらふらになりながら病院を回っているのです。
お兄さん先生は、そんなわたしの気持ちに気付くはずもなく、治療方針を説明します。
先生は、
「あなたの望むような手術をします」といいました。
「子宮を残したいとおっしゃるなら、そういう手術をしましょう。女性にとってシンボルだとおっしゃる方も多いですからね」
「ただし、まずホルモン治療を半年続けてください。筋腫が小さくなってから手術をすることになります。成功の可能性は2~3割。ホルモン治療が効いたら5割。
腹腔鏡手術をはじめても、途中からおなかを切って、子宮を摘出する可能性もあります」
「子宮を取る手術より、筋腫だけを手探りで取る手術の方が難しいんです。時間もかかりますし、その分出血も増える。それでも、あなたが子宮を残したいのならやって見る価値はあるのではありませんか?」
「あなたにはそういったリスクを理解して手術を受けてもらいたいですし、もしあとあと引きずるようなことがあっても、その時は一緒に考えましょう」
ぜひやりましょう。と力強くいってくれました。
真っ白な壁に近代的な設備の診察室で、若い先生に熱心に手術を勧められて、手術そしてもいいかな、と思ってしまうくらいこの先生も誠実でした。
ただ、その熱心さが彼自身の経験を積みたい一心にも聞こえてしまう。
若い医師は大変だなあと関係ないことを思って、
「もう一度ゆっくり考えます」
と言って、診察室を後にしました。
わたしの筋腫は、だれが見ても手術が必要であること、
子宮を残せる可能性は半分に満たないこと、
以上のことがはっきりとわかり、
最初の病院で手術を受けることに決めました。